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カテゴリー "美術" の記事

フェルメールとレンブラント 世界劇場の女性

フェルメールとレンブラント -17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち 世界劇場の女性
2015年10月24日~2016年1月5日 京都市美術館

17世紀はオランダが最も栄えた時代であり、芸術の面でも様々な発展がありました。
宗教改革の影響もありそれまでの宗教画中心から風景画・肖像画・風俗画・静物画など
様々なジャンルの絵画が描かれるようになります。
今回の展覧会では、アムステルダム国立美術館所蔵の作品を中心に、
メトロポリタン美術館、ロッテルダム美術館などから約60点がジャンル別に展示されました。


Ⅰ ハールレム、ユトレヒト、アムステルダム―オランダ黄金時代の幕開け
17世紀初期のオランダ絵画はイタリアのバロック絵画の影響を受けて発展していきます。


Ⅱ オランダ黄金時代

 Ⅱ-1 風景画家たち
17世紀オランダで風景画は大きく発展を遂げました。
ライスダールをはじめオランダの自然を題材に描いた作品が紹介されています。

 Ⅱ-2 イタリア的風景画家たち
オランダと異なる晴れ渡った青い空や古代遺跡などが描かれたイタリアの風景は
エキゾチックな魅力あふれる物として当時のオランダでもてはやされました。
実際にイタリアで学びイタリアで描かれた作品だけではなく、
想像で描かれたイタリア的風景画も数多く存在します。
 
 Ⅱ-3 建築画家たち
建築画はオランダで独自に発達したジャンルで、主に教会建築の内部を描いたものです。
実際の教会をそのまま描いたものだけではなく、
複数の実在する教会のさまざまな建築要素を組み合わせて描き出した作品もあります。
また当時の教会内部の様子を知る貴重な資料ともなっています。

 Ⅱ-4 海洋画家たち
海洋貿易で栄えたオランダでは海景画も大きく発展しました。
巨大な軍船や交易船を描いたものから、小さな漁村の風景を描いたものまで
様々な海景画が描かれています。

 Ⅱ-5 静物画家たち
果物、海産物、銀器、ガラス器などオランダには世界中から様々なものがもたらされました。
それらは当時のオランダの豊かさを示していますが、
同時にこの世の儚さ、虚しさを表すものでもあります。

 Ⅱ-6 肖像画家たち
17世紀オランダの肖像画に描かれているのは豊かになった市民たちです。
単独の肖像画だけではなく、特定の団体の構成員を集団で描く集団肖像画も数多く描かれました。

 Ⅱ-7 風俗画家たち
17世紀オランダ絵画を代表するジャンルといえるのが風俗画です。
フェルメール、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンなど多くの画家がこのジャンルで活躍しています。


Ⅲ レンブラントとレンブラント派
レンブラントの工房からは多くの弟子が巣立っています。
光と影のコントラスト、ドラマチックな構図などレンブラントの技法は弟子たちに引き継がれました。


Ⅳ オランダ黄金時代の終焉
17世紀末、オランダは海上の覇権を徐々に失ってゆき、
それと同時にオランダ絵画の黄金時代も幕を閉じました。


今回の展覧会は「世界劇場の女性」と題されていますが、
タイトルほどには女性を描いた作品は多くはありませんでした。
しかし展示されている女性像は女神から庶民まで様々で、
17世紀オランダにおける女性の姿を垣間見させてくれます。


Johannes_Vermeer_-_Young_Woman_with_a_Water_Jug_-_WGA24662.jpg
フェルメール 水差しを持つ女 1662頃 

今回初来日の作品です。
左側に窓、壁に地図、手前にテーブル、そして佇む一人の女という
フェルメール作品の典型ともいえる構図で描かれています。
窓を開けて水差しを持ち上げるまでの一瞬をスナップショットのように切り取っていて、
描かれている女性がこれから動き出すように見えてきます。


Bellona,_by_Rembrandt_van_Rijn
レンブラント ベローナ 1633

こちらも今回初来日の作品です。
ベローナはローマ神話に登場する戦いの女神です。
神話の女神といえばたいてい若く美しく描かれるものですが、
レンブラントはベローナを貫禄あふれる中年女性の姿で描いています。
威厳ある堂々とした姿は凛とした美しさに満ちています。


curiosity-large.jpg
ヘラルト・テル・ボルフ 好奇心 1660-62頃

テル・ボルフは主に肖像画と風俗画を描いた画家です。
手紙を読む、書く女性の姿は当時の風俗画で人気の高い画題でした。
この場合の「手紙」は主に恋文です。
中央の女性の書く手紙を召使と思われる女性は興味深げに覗き込んでいます。
こちらもおそらく恋文と思われます。
女主人を見上げる犬の後ろ姿が愛らしく印象に残ります。


Samuel_van_Hoogstraten_-_The_Anaemic_Lady1.jpg
サミュエル・ファン・ホーホストラーテン 貧血症の女 1670頃

奥行きのある広い家や飾られた絵画の数々から、彼女は裕福な市民であると思われます。
女性の足元にいる猫が大変愛らしく、目が釘付けになってしまいました。

回顧2014年の展覧会

2014年もあと二日余りとなりましたがいかがお過ごしでしょうか。

今年は2月に東京、10月に京都へ展覧会を見に行きました。
また5月には広島で友人の結婚式に出席した折に展覧会を見てきました。

和歌を愛でる  根津美術館
この展覧会はこちらにて感想をあげています。
「言葉」を楽しむための様々な美の形を見ることができました。

Kawaii日本美術 山種美術館
この展覧会の感想はこちらです。
一言でいうならば「カワイイ」は日本古来の文化なのだなということを再認識させられた内容でした。

大浮世絵展 江戸東京博物館
浮世絵の起こりから終焉までを一挙に見ることのできる展覧会でした。
これまで系統だって浮世絵を見たことはなかったのですが、
写真などで何度も見たことのある作品をはじめ、
様々な作品を見ることができたのがよい経験となりました。

クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美 東京国立博物館
この展覧会の感想はこちらです。
平安時代から明治に至る日本美術を中心に、近代西洋美術、中国の山水画など、
「人」と「自然」をどのように表現してきたかをたどることのできる内容でした。

人間国宝展 生み出された美、伝えゆくわざ 東京国立博物館
現代の人間国宝の作品と、国宝・重要文化財の名品を対比させる展示で、
日本の工芸の豊かさを感じ取ることができました。

ラファエル前派展 森アーツセンターギャラリー
開催を知ってからずっと楽しみにしていた展覧会でした。
以前(1998年:テート・ギャラリー展、2008年:ミレイ展など)見たことがある作品もありましたが、
大好きな作品や興味ある作品との再会は心ときめくものでした。
特に《ベアタ・ベアトリクス》はこれまで実物を見たことがなかったので、
見ることができて本当に嬉しかったです。

ザ・ビューティフル 三菱一号館美術館
19世紀後半英国の唯美主義に焦点を当てた展覧会はこれまであまりなかったと思います。
絵画作品だけではなく、工芸・宝飾品などを通してひたすらに「美」を感じる展覧会でした。

シャヴァンヌ展 Bunkamuraザ・ミュージアム
シャヴァンヌの代表作は壁画が多く、これまでほとんど展覧会では見たことがありませんでした。
壁画の習作やタブローで、彼の描きだす理想郷をじっくりと見ることができてよかったです。

このほか東京では太田記念美術館、朝倉彫塑館へ行きました。
また、帰りの羽田空港ディスカバリーミュージアムでは仙厓の禅画を見ました。

華麗なる西洋絵画の世界展 ひろしま美術館
感想はこちらです。
ほとんどの作品が以前見たことのあるものでしたが、好きなジャンルのものは何度見てもいいものです。

平山郁夫展 文化財赤十字への道
感想はこちらです。
単なる回顧展ではなく、文化財保護活動へ焦点を当てた構成が印象に残りました。

ホイッスラー展 京都国立近代美術館
ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 京都市美術館
同時期に京都・岡崎で開催されていた二つの展覧会は、ともに「ジャポニスム」というキーワードで結ばれています。
日本の美と西洋の美の幸福な出会いを感じることのできる展覧会でした。

国宝 鳥獣戯画と高山寺 京都国立博物館
修復を終えて初めて全四巻が公開された展覧会でした。
鳥獣戯画はもちろんですが、子犬やつがいの鹿の像なども魅力的で、
「クール・ジャパン」の原点を見る思いがしました。

京(みやこ)へのいざない 京都国立博物館
京都国立博物館・平成知新館開館の記念展で、国宝・重要文化財そろい踏みの内容はとても見ごたえがありました。

前回のブログ更新は5月で約7か月ぶりの更新となりました。
展覧会を見に行くのは今でも好きなのですが、それを文章にする気力がなかなか続きません。
一気にやってしまえばいいのでしょうがそれができないのが困りものです。

これからの展覧会情報も年始にチェックしようと思っています。

平山郁夫展―文化財赤十字への道―

平山郁夫展―文化財赤十字への道― 4月8日~6月1日 広島県立美術館

5月初めに広島へ行ったときに見てきました。
広島県瀬戸田町(現:尾道市)出身である平山郁夫の没後初となる広島での回顧展です。
展覧会では主に広島県立美術館と平山郁夫シルクロード美術館所蔵の作品が出展されています。

第1章 原風景
1940年代から50年代にかけて描かれた初期の作品群です。
故郷である瀬戸内の風景やそこに生きる人々などが量感豊かな筆致で描かれています。
私は初期の平山作品を見るのは初めてだったのですが、
60年代以降の作品とは題材も絵のタッチもかなり異なる印象を受けます。

第2章 仏教伝来
平山は1960年代以降仏教伝来をテーマとした作品を描き始めます。
筆致もそれまでの明瞭な輪郭を持ったものから薄靄に煙るようなものに変化し、幻想的な様相を見せるようになります。
一般的に「平山郁夫」と言われてイメージする作品が描かれるようになるのがこのころからです。

第3章 シルクロード
1970年代から平山は自分の足で仏教伝来の道、いわゆるシルクロードの取材を始めます。
平山の足跡はパミール高原、フンザ渓谷、ガンダーラ、楼蘭、敦煌、雲崗などいわゆる「西域」から
ペルセポリス(波斯黄堂旧址)、パルミラといったシルクロードの西方、
さらにクレタ島、アッシジなど地中海世界を経て、最終的にはシルクロードの終着駅と称される奈良に至ります。
「仏教伝来の道」を超えて広く人類の歴史をたどる道を旅した様子がしのばれます。

第4章 文化財保護活動
1980年代以降、アフガン紛争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争などシルクロードをめぐる国々で紛争が相次ぎ、
それにより破壊されたり、本国から流出した文化財は多数に上ります。
平山は貴重な文化遺産を後世へ守り伝えるため「文化財赤十字」構想を提唱し、様々な活動を行っています。
ここでは文化財保護の過程で収集された文物や壁画や遺跡の模写が展示されています。

第5章 日本の美、平和への祈り
主に1990年代以降の作品で構成されています。
晩年平山は日本の美しい風景や身近な草花を多く描きました。
この章で展示されている《広島生変図》は平山が原爆を主題とした唯一の作品で、
渦巻く紅蓮の炎の中、宙に坐する不動明王が描かれています。
人々の姿など直接原爆の惨禍が描かれていないにもかかわらず
不動明王の姿によって戦争に対する怒りと平和への祈りが表されていると思います。
《祈りの行進 聖地ルルド・フランス》は最晩年の作品で、
人々の祈りの姿の普遍性が表現されています。

華麗なる西洋絵画の世界展

女性像と日々の営みで綴る 華麗なる西洋絵画の世界展―バロック絵画からバルビゾン派まで
2014年4月26日~6月15日 ひろしま美術館

山形県の山寺後藤美術館所蔵の西洋絵画の展覧会です。
山寺後藤美術館はバロックからロココおよび19世紀アカデミスム絵画では国内有数のコレクションを持っています。

「神話・聖書・文学」
「美しさと威厳」
「静物~見つめる」
「風景と日々の営み」
という4つのテーマに分けて展示が行われていました。

実は2006年に愛媛県美術館で開催された山寺・後藤美術館所蔵 ヨーロッパ絵画名作展を見ていて、
今回の展示作品も大半は見たことのあるものでした。

以前感想を述べたことのある作品以外で印象に残った作品について述べてみたいと思います。

サッソフェラート《祈りの聖母》
サッソフェラートは17世紀イタリアの画家です。
静謐で穏やかな佇まいの聖母像は当時全盛だったバロック様式とは異なり
古典的で端正なタッチで描かれています。

ゴッドワード《古典的な美しい女性》
ゴッドワードは19世紀末から20世紀初頭にかけての英国アカデミー派の画家です。
古代ローマの衣装を纏う豊かな黒髪に濃い眉・黒い瞳の美女の姿は
レイトン《パヴォニア》や、アルマ=タデマの描く古代の女性像に通ずるものがあります。

ブーグロー《愛しの小鳥》
羊飼いや労働をする少女など庶民の少女を多く描いたブーグローですが、
この作品では珍しく上流階級の少女を描いています。
愛らしさと気高さを併せ持つ少女が魅力的です。

カバネル《エコーの声を聞く》
美少年ナルキッソスに恋い焦がれ、ついに声のみの存在となってしまったニンフのエコー、
そのエコーの声に耳を澄ます娘の姿が描かれています。
彼女の眼差しは清純無垢というよりどこか官能性を帯びていて、
「ファム・ファタル」的な魅力もはらんでいます。

4つのテーマの一つが「美しさと威厳」なのですが、
ミレイ《クラリッサ》や、ポインター《ミルマン夫人の肖像》など、
まさしくこのテーマにふさわしい作品だと思いました。
(この2点については以前感想を述べています。)

クリーブランド美術館展

クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美 1月15日~2月23日 東京国立博物館 平成館

この展覧会はクリーブランド美術館において2013年6月新たに日本ギャラリーが開設されたことを記念して開催されたものです。

神・人・仏
仏画や肖像画など日本画における人体表現の変遷を追った展示となっています。

《二河白道図》鎌倉時代
極楽往生への過程を描いた図です。
幅15cmほどの白く細い道の左下方は炎の川、右下方は水の渦巻く川で、
ほんの少しでもそれてしまえば極楽往生はかなわなくなってしまいます。
人の心の危うさをこの図は的確に表していると思います。

《福富草紙絵巻》鎌倉時代
ユーモラスで動きのある表現が見ていて楽しくなりました。

《霊昭女図》春屋宗園 賛 室町時代
清貧の生活を送る若い女性の姿を描いています。
意志の強そうな眼差しが印象的です。

《雷神図屏風》「伊年」印 江戸時代
雷神図は琳派によって多数描かれていますが、
こちらの作品は著名なほかの画家の描いた作品と比較すると
野趣に満ちた感じがします。
雷神の表情は荒々しさと同時に愛嬌もあって、
恐ろしさよりも親しみやすさを私は感じます。

《大空武左衛門像》渡辺崋山 1827
写実的なタッチの等身大で描かれた肖像画です。
大空武左衛門は肥後出身の力士で、
身長227cm 体重131kgであったと伝えられています。
展示室には等身大のシルエットと手形が掲げられて、
実際の武左衛門の大きさが体感できるようになっていました。

《地獄大夫図》河鍋暁斎 明治時代
地獄大夫は室町時代の遊女で、山賊にかどわかされて遊女に売られました。
彼女は現世の苦しみは前世の報いとして自ら「地獄」を名乗り、
地獄絵図を描いた打掛を愛用したといわれています。
暁斎描く地獄大夫も極彩色の打掛を身に着けていますが、
彼女の打掛や帯には七福神が描かれ、
閻魔王こそいるもののその表情は恐ろしげではなく、
地獄の責め苦は一切描かれていません。
これは「地獄に仏あり」とも、「諸行無常」ともとることができ、
一つの作品を様々な視点から見る楽しみを与えてくれます。

花鳥風月
動物や植物を描いた作品群です。

《南瓜図》伝没倫紹等 賛 室町時代
ある意味この展覧会で最もインパクトのあった作品です。
南瓜に縄をかけて大勢で引く虫達(蟻かバッタ?)を描いています。
漫画的でユーモアあふれる表現は現代作品といっても頷けそうです。

《龍虎図屏風》雪村周継 室町時代
うねるような龍としなやかな虎の姿が躍動感ある作品です。
迫力よりも伸びやかさや虎の可愛らしさを感じます。

物語世界
日本美術において物語世界というのは重要なジャンルとなっています。
この展覧会では「伊勢物語」を描いた作品が展示されています。

《伊勢物語図色紙 住吉の浜》俵屋宗達 江戸時代
「伊勢物語」第68段「住吉の浜」の場面を描いています。
住吉を描く場合にはシンボルともいえる太鼓橋を描くのが通例ですが、
この作品には橋ではなく社殿が描かれています。

《燕子花図屏風》渡辺始興 江戸時代
有名な「東下り」(第9段)に登場する八橋を描いたものです。
橋や川の流れは一切描かず、金彩と燕子花のみで八橋を象徴的に表しています。

近代西洋の人と自然
特別出品としてモリゾ、モネ、ピカソ、ルソーの作品が展示されていました。

山水
名所や胸中の理想風景を描いた山水画の展示。
山水画は中国に起こり、日本に伝わります。
日本においても当初は中国の理想の山水を描いていましたが、
やがて日本独自の山水画を生み出すこととなります。
ここでは室町時代から江戸後期にかけての山水画とともに
中国で描かれた山水画も紹介されていました。

この展覧会は展示作品数はそれほど多くはなかったのですが、
どの作品も大変興味深い内容のものでじっくりと見ることができました。
これまで自分が知らなかった作品が多かったので、
新たな美の発見ができて楽しかったです。