臥龍山荘は大洲市肱川流域随一の景勝地「臥龍淵」を臨む場所に建てられており、
臥龍院、知止庵、不老庵の三つの建物から構成されています。

(山荘の門へ続く石段)
現在の山荘は明治の貿易商河内寅次郎が10年かけて築いたもので、
桂離宮、修学院離宮などを参考に京都及び地元・大洲の大工が施工しました。
建物内は残念ながら撮影禁止でした。
霞月の間玄関を入って最初の部屋です。
この部屋には珍しく二方向に床が設けられています。
床に丸窓が開けられ、隣の仏間の灯明が浮かび上がるようになっており、
この丸窓を月に見立て、床を横切る違い棚は雲霞に見立てられています。
壁や襖は薄鼠色にしつらわれて、襖の引き手は蝙蝠の形になっており、
部屋全体で薄暮を表現しています。
私が行った時間にはあまり陽射しが入っていなかったこともあって、
この「薄暮」の雰囲気を存分に味わうことが出来ました。
廊下は仙台松の一枚板で作られていますが、
板には均等に溝が引かれ、一見普通に何枚もの板を組み合わせて作ったように見えます。
霞月の間と壱是の間の濡縁の間には板戸がはめられています。
現在はガラスで保護されているのですが、
芭蕉と薔薇の絵が描かれた板戸です。
南国風味の芭蕉と洋風の薔薇というのは
純和風の空間に不思議なアクセントを与えています。
清吹の間霞月の間から仏間を隔てた場所に位置し、
広い書院窓の上には神棚が設けられています。
夏を涼やかにするために天井(屋久杉と竹で出来ています)は高く、
欄間の透かし彫りも花筏、菊水など涼しげな題材が用いられています。
花筏の欄間は書院窓の上部を飾っていますが、
内側から障子紙が貼られ、ほのかに模様が浮かび上がる様子が幻想的です。
壱是の間臥龍院の中で最も格式の高い書院座敷で、
随所に桂離宮の様式が取り入れられています。
畳を上げれば能舞台としても使用できるようになっています。
この部屋からは庭園をよく見渡すことが出来、
この日は私以外に見学者がいなかったため、
濡縁に腰掛けのんびりと庭園を眺めました。

庭園から眺めた壱是の間の濡縁
壁の丸窓は桂離宮の様式を模したものです。
知止庵元は浴室であった建物を昭和24年に茶室に改造したものです。
「知止庵」の名の由来は大洲藩ゆかりの陽明学者中江藤樹の教えによるものです。
不老庵
臥龍淵を足元に臨む懸崖作りの庵です。
建物そのものを舟に見立て、
網代張りの天井に川面の月光を映すという趣向となっています。

不老庵の「捨て柱」です。
生きた槇の木が使われ、この木を基準に不老庵は建てられました。
この木は不老庵が建てられて以来朽ちもせず伸びもせず、
建築当初と全く同じ様子で生えているそうです。

不老庵から臨む肱川の流れです。
まさに「絶景」と呼ぶのにふさわしい風景とはこのことだと感じます。
この日は天気もよく誰もいない不老庵でしばしくつろぎのひと時を過ごしました。
個人的に臥龍山荘でどの部屋が一番好きかと聞かれれば
迷わず不老庵をあげます。
余分な装飾を一切排除して、自然の造形美を満喫できるという感じがします。
そして何よりゆったりとした気持ちになれる場所だと思います。
今回他に見学者のいない時間帯であったため、
静謐な侘び寂びの世界を存分に味わうことが出来ました。
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