Saint Sebastian vol.9

モロー 聖女たち(聖セバスティアヌス) 1869

モロー 聖セバスティアヌス 1869頃
セバスティアヌスは矢を射られた後放置されていましたが、
そこへ通りかかった寡婦イレーネの介抱によって息を吹き返します。
この場面は処刑と並んでジョルジュ・ド・ラ・トゥールをはじめ数多くの画家が描いています。
モローの2点の作品はほぼ同時期に描かれたもので、
どちらも非常に繊細で美しいものです。
しかし一方が縦長で他方が横長の画面、
一方は大地の色が目立つ暖色系の色彩で、
他方は空の色が支配する寒色系の色彩など
この2点は実に対照的な様相を呈しています。
聖女たちに抱き起こされるセバスティアヌスの姿は
『ピエタ』のキリスト像を彷彿とさせます。
モローは1862年に聖堂に納めた連作『十字架の道行』の中で
『墓に降ろされるイエス』と
『十字架から降ろされ母に委ねられたイエス』を描いていますが、
『墓に…』のイエスと『聖女たち』のセバスティアヌス、
『十字架から…』のイエスと
『聖セバスティアヌス』のセバスティアヌスのポーズは極めて似ているのです。
モローはそれぞれのイエス像に呼応させてセバスティアヌス像を描いたようです。
モローは母親や恋人など身近な女性の愛情に包まれて暮らしていました。
そんな彼が描く「傷ついたセバスティアヌスを介抱する聖女たち」は
穏やかで優しく愛情に満ちた様子で、
これが凄惨な処刑の場面の後であることを忘れさせるようです。
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