オルセー美術館展 パリのアール・ヌーヴォー―19世紀の華麗な技と工芸―4月7日~6月14日 広島県立美術館
この展覧会はオルセー美術館のアール・ヌーヴォー・コレクションから
工芸品を中心に絵画・写真など95件147点を展示しています。
オルセー美術館といえば日本では「印象派の殿堂」のイメージが強く、
「オルセー美術館展」といえば印象派を中心としたものがほとんどでしたが
今回はアール・ヌーヴォーに主体を置いた展覧会となっています。
一般に展覧会の展示法は時代ごと、あるいはジャンルごとが主流ですが、
この展覧会ではサロン、ダイニング・ルーム、書斎、貴婦人の部屋と
それぞれのイメージでまとめるという展示が行われています。
まるで19世紀末パリの邸宅を訪問するかのような雰囲気が味わえました。
第1章 サロンまず来客(展覧会観覧者)はサロン(応接間)に通されます。
スペード・ハート・ダイヤ・クラブのトランプにちなんだ装飾がなされたゲームテーブルや
葦と蜻蛉のフロア・スタンドが出迎えてくれます。
部屋にはモーリス・ドニの『訪問』(世田谷美術館所蔵)や
アンリ・リヴィエール『エッフェル塔三十六景』が飾られています。
『エッフェル塔三十六景』は『富嶽三十六景』にインスパイアされたもので
浮世絵風の表現がモダンな印象です。
第2章 ダイニング・ルームサロンで打ち解けあった来客はダイニング・ルームに通され、
食事をともにしながら交流を深めます。
ペロル兄弟社製のダイニングセットは流麗なデザインで、
かつ華美に偏らず落ち着いた雰囲気です。
植物がそのまま銀になったかのようなカトラリーはいかにもアール・ヌーヴォーという感じがします。
こちらにも『エッフェル塔三十六景』の一部が飾られています。
第3章 書斎書斎は邸宅の主のプライベート空間です。
蘭をモチーフにした書斎机はところどころ塗装がはがれており、
これが実用品として作られたものであることを明らかにしています。
インク壷や花瓶など主の趣味を反映する工芸品が書斎には飾られました。
第4章 エクトル・ギマールエクトル・ギマールは19世紀末パリを代表する建築家で
パリ万博にあわせて開通した地下鉄の入口のデザインで知られています。
ここでは彼のデザインによる天井灯やシャンデリアの実物やデザイン画が展示されています。
第5章 貴婦人の部屋ブドワール(boudoir:化粧室)と呼ばれた女性のプライベート空間です。
ガレによる婦人用机は優美な装飾が施されていますが、足元のカエルがどことなくユーモラスです。
バスタールの扇子“孔雀”は螺鈿彫刻の孔雀が世紀末的な美しさで印象に残りました。
もう一つの扇子“大麦”もシンプルなデザインでありながらとても洗練されたものです。
ラリックの飾りピン“芥子”は実用ではなく観賞用として作られたもので大輪の芥子の花がインパクトあります。
色は付いていませんが、これに色をつけるならばヒマラヤの青い芥子の色がぴったりだと感じました。
第6章 サラ・ベルナールサラ・ベルナールはアール・ヌーヴォーのミューズと呼べる存在です。
彼女が使用していたとされる椅子“昼と夜”は過剰なまでの装飾とどっしりした存在感で、「世紀末の女王」の玉座といった趣です。
ミュシャによるサラ主演の舞台のポスターも数点展示されていました。
第7章 パリの高級産業19世紀末は機械化による大量生産が主流になっていく一方
伝統に培われた手工業が高級産業となって行きました。
ここでは七宝・陶芸・金工が展示されています。
七宝の花瓶“オルフェウス”はモロー晩年の作品『エウリュディケの墓の前のオルフェウス』をモチーフにしたものです。
モローの絵画作品(特に小型で細密なもの)は、まるで宝飾品のようなのですが、
それをそのまま七宝で形作ってしまったのが“オルフェウス”だと思いました。
さくらんぼ模様のボンボニエール(ボンボン入れ)は大変愛らしく、こんなものを手元に置いておきたいと感じました。
特別展示 -ウッドワン美術館所蔵― アール・ヌーヴォーのガラスウッドワン美術館は広島県廿日市市にあり、マイセン磁器を始めアール・ヌーヴォーのガラス工芸のコレクションで知られています。
こちらの展示は広島会場限定のもので、ガレやドーム兄弟による花瓶やランプが展示されていました。
透明感のあるものからガラスとは思えない重厚なものまで、様々な作品が展示されていましたが、
一番印象に残ったのはドーム兄弟の睡蓮型三燈ランプです。
鮮やかな色合いと流れるような形態がとても美しいものでした。
今回の展覧会は絵画作品は少なかったのですが、
「アール・ヌーヴォー」が総合芸術であるということを再認識しました。
世紀末パリの空気を体感できる展覧会だと思います。
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