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Windflowers

美術・猫・本など興味ある事柄や日々の徒然を綴るブログです。

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ジョン・エヴァレット・ミレイ展

去る9月5日に英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠 ジョン・エヴァレット・ミレイ展を見ました。

今回の展覧会は先にロンドンとアムステルダムで開催されたもので、
日本国内でミレイ作品の本格的回顧展は初となります。


I ラファエル前派
1848年ロイヤル・アカデミーに在籍していたミレイは、
ウィリアム・ホルマン・ハント、ロセッティらと「ラファエル前派兄弟団」を結成します。
ラファエロ以前の素直で素朴な絵画を取り戻すことを目指し、
克明な自然描写と鮮やかな色彩で文学的な主題を描くのが
ラファエル前派兄弟団の特徴です。

この頃のミレイの作品を見てもそういった「ラファエル前派的」特徴がはっきりと見られます。


両親の家のキリスト 1849-50

「大工の仕事場」という別題がついている通り、
大工であるキリストの養父ヨセフの仕事場にいるキリストとマリアを中心とした聖家族の様子です。
しかしそれまで理想化して描かれるのが普通であった聖家族を
どこにでもいるような庶民の姿で描いたことに非難が浴びせられました。
ミレイは実際の大工の仕事場に通ってこの作品を仕上げたといいます。
中央の少年キリストは手に釘を刺してしまい泣いていますが、
これは将来磔刑につくことを暗示するものであり、
右端の少年(後の洗礼者ヨハネ)が傷を洗う水を持ってきているのは
キリストに洗礼を授けることを予告するものです。


木こりの娘 1850-51

木こりの娘と名士の息子の幼い恋を描いた詩に基づいた作品です。
木々の緑と少年の赤い服が鮮やかな対比を見せています。
葉の一つ一つまで丁寧に描かれ、ラファエル前派が目指した表現がここにも見受けられます。

『マリアナ』『オフィーリア』なども色彩の美しさ、細部に至るまで克明に描かれた画面など、
本物の作品の前でこそ味わえる感覚を満喫しました。
『マリアナ』についてはこちらをご覧ください。『オフィーリア』についてはこちらで取り上げています。
(2005年>水の中の百合)



II 物語と新しい風俗
1853年ミレイはロイヤル・アカデミー準会員に選ばれ、
ラファエル前派の活動から徐々に離れていきます。
題材も物語から取った中世を舞台にしたものから、
当時の風俗を描いたものが多くなっていきます。


III 唯美主義
唯美主義は19世紀後半の英国画壇を支配した思潮の一つで、
特定の主題を表現するというものではなく、
絵画作品そのものの美しさを追求して描かれるものです。


エステル 1863-65

エステルは旧約聖書に登場する人物で、
ヘブライ人でありながらペルシアの王妃となった女性です。
彼女は同胞を窮地から救った女傑とされていますが、
この作品ではそういった物語を描こうとしたのではなく、
ペルシアの王を魅了した彼女の美しさそのものを描いています。
黄色い衣裳がどことなく日本の着物を思わせます。


IV 大いなる伝統
1870年代以降も歴史的主題を扱った作品を数多く描いていますが、
ラファエル前派時代のものとは表現方法や主題がかなり異なっています。
細部の緻密な描写よりも、
画面全体の構成そのものに主力を注ぐように変化しています。
ミレイが作風を変化させた理由の一つに
結婚し8人の子供に恵まれたということもあげられます。
ラファエル前派様式の細密描写では作品を量産することは難しく、
家族を養うのが困難であるからです。


V ファンシー・ピクチャー
「ファンシー・ピクチャー」とは「空想的な絵」と言う意味で、
18世紀英国で流行した風俗画の一種です。
愛らしい女性や子供を仮装させるなどして空想的に描きました。


初めての説教 1863

ミレイが初めて手がけたファンシー・ピクチャーで
モデルは当時5歳の長女です。
この愛らしい作品は大いに人気を博し、
その後自分の子供をモデルにしたファンシー・ピクチャーを数多く描いています。

ファンシー・ピクチャーには実に愛らしい少女が描かれています。
これら少女の作品は後日詳しく取り上げてみたいと思います。


VI 上流階級の肖像
ミレイにとって肖像画は経済的安定の源であると同時に
画家としての成功を図る目安でもありました。
政治家・文人・貴婦人、そして自分の家族など
数多くの肖像画を残しています。


ハートは切り札 1872

モデルは実業家ウォルター・アームストロングの娘たちのエリザベス、ダイアナ、メアリーで、
彼女たちがトランプに興じる姿を描いています。
注文制作による肖像画ですが、
さりげない日常を切り取ったスナップ写真のような自然な雰囲気です。


VII スコットランド風景
ミレイはスコットランドの自然を愛し、数多くの風景画を残しています。
それらの作品の多くは荒涼とした自然を描いたもので
いわゆる「ピクチャレスク」な美しさはないのですが、
「自然」そのものが持つ力強さが画面から伝わってきます。


露にぬれたハリエニシダ 1889-90

それまでのミレイの作品と異なり薄もやに煙るような情景が印象的です。
写実よりも様式的表現の勝るこの作品を見て、
現代日本画の山水画を連想しました。


ミレイというと「ラファエル前派の画家」というイメージが強く、
画業の中期以降の作品についてはこれまであまり触れられることがありませんでしたが、
ファンシー・ピクチャーや肖像画を多く手がけるようになってからの彼の作品にも
鮮やかな色彩や丁寧な描写などラファエル前派時代と変わらぬ特徴が見て取れます。
ミレイの様々な作品をじっくりと楽しむことの出来る大変よい機会を与えていただきました。
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