FC2ブログ

Windflowers

美術・猫・本など興味ある事柄や日々の徒然を綴るブログです。

ラファエル前派画集「女」

ラファエル前派画集「女」
 ジャン・マーシュ著 河村錠一郎訳 1990 リブロポート

現在は絶版になっていますが、私の大好きな本です。
美しい図版の数々も見ものですが、
19世紀ヴィクトリア朝における女性の立場や
女性と芸術家の関係についての考察も大変興味深く示されています。


序文

冒頭にキーツとテニスンの詩『聖アグネスの宵祭』の一節が紹介されています。
キーツの詩のヒロインは恋人の姿を夢見る乙女で、
少女の性への目覚めがロマンティックに語られています。
一方テニスンの詩のヒロインは見習いの尼僧で、
神に生涯を捧げる誓いを立てる姿が描かれています。

この二つの詩に描かれた女性像が
ヴィクトリア朝の女性観を端的に表したものとして紹介されています。



第一章 ボヘミアンと絶世の美女

ラファエル前派の成り立ちと、モデルとなった女性たちについて紹介されています。


第二章 聖女

初期のラファエル前派の画家たちは宗教的テーマに高い関心を示し、
聖女や尼僧をテーマにした作品を制作しました。
彼らは画家になった当初は
芸術が人間のモラルを向上させるという考えを持っていたようです。


第三章 年頃の乙女

「年頃の」乙女というのは、結婚適齢期に達した娘を指します。
19世紀後半にようやく一般的になった
「ロマンティック・ラヴ」をテーマにした作品が紹介されています。


第四章 小鳩と賢母

ヴィクトリア朝において女性は「家庭の天使」であり、
よき妻、よき母、またよき娘であることが求められました。
そういった女性は「小鳩」にたとえられ、理想化されたのです。


第五章 堕ちたマグダラのマリア

「小鳩のごとき娘と天使のような妻」の裏表にされた「堕ちた女」たちの姿です。
彼女らは罪深い存在とされ、
一般社会からは蔑みの目で見られることとなりましたが、
画家たちはその姿を魅力的に描いています。


第六章 中世の乙女たち

機械文明の隆盛によって、
かえって芸術家たちは中世の世界に憧れを見出すようになりました。
ラファエル前派の芸術家たちが夢見た貴婦人や乙女たちの世界が紹介されています。


第七章 魔女

ラファエル前派絵画で描かれる女性は
たとえ邪悪な存在であってもあくまでも美しく描かれました。
妖しい美しさをたたえた魔女や妖精たちの姿を見ることができます。


第八章 寓意と偶像

女性の姿を特定の概念を表すための擬人像として用いることは
西洋において古くから行われてきました。
初期ラファエル前派では寓意的女性像はあまり描かれませんでしたが、
後には様々な女性の姿が寓意的に描かれるようになりました。


第九章 青白き死の女

19世紀後半の象徴主義では愛と死は不可分の関係にありました。
それゆえに死にゆく女の姿が美しく描き出されたのです。


第十章 結び

「シャロットの女」を通して、
ラファエル前派が描き出そうとしたヴィクトリア朝の「女」について語っています。


ラファエル前派の芸術家たちは自身の美学や主張、情念を
様々な「女」の姿を通して表現しようとしました。
ただ美しいだけではなく、様々な思いが秘められているからこそ
描かれた女たちは今も人の心を惹きつけるのであろうと思います。

今回取り上げた作品のほかにも魅力的な女性像がたくさんあります。
今後おいおい取り上げていけたらと思っています。
スポンサーサイト